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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(27) ―次の妊娠・分娩へ向けて(2)

––– 分娩前の母牛の栄養管理 (つづき) –––
 分娩後の受胎成績を向上させるためには分娩トラブルを減らすことが重要であり、それには分娩前からの栄養充足が欠かせませんが、まずは4つの各キーワードが「なぜ重要なのか?」を簡単にご紹介し、それをもとに、「栄養の充足と分娩の関係」を具体的に見ていきたいと思います。

1. エネルギー:特に糖
 牛をはじめとした反芻動物において、主要なエネルギー源は第一胃発酵で生まれる「揮発性脂肪酸=VFA」であることは、皆さんよくご存知かと思います。しかしこの脂肪酸は胎盤をあまり通過できないため、胎子の栄養源とはなりにくいというジレンマがあります (1)。VFAの一つである酢酸は妊娠末期の胎子のエネルギー源としてはおよそ10-15%程度を占めるものと考えられていますが、残りの大部分は「ブドウ糖=グルコース(およびそれをもとに作られる乳酸)」と「アミノ酸」になります (1)。

獣医/分娩の管理(27) ―次の妊娠・分娩へ向けて(2)

 ブドウ糖はVFAの一つであるプロピオン酸を主要な原料として肝臓で合成される、もしくは、第一胃で消化されないような加工をされた特殊なブドウ糖の給与によって腸から吸収される必要があります。一般的には前者が重要な経路になるので、ブドウ糖の合成のためには肝機能が正常であることも重要になります。
 
 またブドウ糖は、胎子や子宮の主要なエネルギー源として重要であるだけでなく、免疫細胞にとっても主要なエネルギー源となっています。免疫細胞の中でも好中球は、分娩後の正常な胎盤脱落 (2) やその後の子宮回復 (3) における中心的役割を担いますが、好中球の主要なエネルギー源もブドウ糖です。乾物摂取量の低下に伴うブドウ糖の供給不足やそれに伴う非エステル型脂肪酸 (NEFA) の増加は好中球機能の低下に繋がります(4)。

2. タンパク質
 上記1. の通り、胎子のエネルギー源として糖と同じく非常に重要な栄養素に「アミノ酸」があります。アミノ酸はタンパク質が分解されたものであり、タンパク質が胎子の成長、特に妊娠末期2−3ヶ月においては極めて重要であることは過去のコラムでもご紹介しました(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=27)。

 胎子のタンパク質要求量が高まるこの妊娠末期2-3ヶ月において、もし餌からのタンパク質供給が足りないと、胎子側はなんと母牛側から無理やりアミノ酸を引っ張ってきて胎盤から取り込みます (5)(*)。この時、母牛は筋肉などを分解して血液中にアミノ酸を供給するので筋肉量や体重が減少しますが、筋肉の分解が亢進している個体では初回発情が遅延する傾向にあることがわかっています (6)。

*タンパク質は胎子へ能動的に取り込まれるため、母牛→胎子へ「能動輸送」される。一方、1. に記載した糖の輸送は母牛側で減少すると胎子側でも減少する「受動輸送」の形態をとる (1)。

3. カルシウム
 カルシウムは体のあらゆる筋肉を動かす上で必須のミネラルであり、特に乳牛では産後に多く発生する、通称「低カル」と呼ばれる低カルシウム血症に陥って起立不能の原因にもなることでお馴染みかと思います。

 そのカルシウムが必要なのは、立ったり歩いたりする時に使う「骨格筋:こっかくきん」だけではなく、消化管や子宮の筋肉を動かす「平滑筋:へいかつきん」も同様です。カルシウムが不足すると産後の子宮収縮が不十分になるので悪露の排出が進まず、結果的に産褥性子宮炎や子宮内膜炎になるリスクが上昇します。また、潜在性低カルシウム血症(*)では好中球の数と機能が低下することが分かっています (7)。

*参考文献中では「血中 Ca 濃度 8.59mg/dl 以下」と定義

4. ビタミンE と セレン
 ビタミンEとセレンは生体内で抗酸化作用を発揮する栄養素として古くから研究されてきました。特に両者は、細胞膜をはじめとした生体内の「膜」における脂質の酸化を抑制する物質として重要であり、子牛の白筋症に対する予防薬として広く利用されています。成牛、特に乳牛においては妊娠後期から泌乳最盛期にわたるまで継続的に過剰生成される「活性酸素種(ROS)」による酸化ストレスが、胎盤停滞、乳房炎、子宮炎、乳房浮腫などの原因となりますが、ビタミンEとセレンにはそれらの予防効果が示唆されています(8, 9, 10)。 またビタミンEは、免疫細胞の好中球が細菌を自身の細胞内に取り込んで殺傷する「貪食:どんしょく」の機能を向上させることが分かっています (11)。

【ここまでのまとめ】
 以上の様に、各栄養素は分娩前後の牛の生体内で様々な重要な役割を果たしています。これらを踏まえ、次回以降はより具体的に「栄養の充足と分娩の関係」を見ていきたいと思います。


––– 参考文献 –––
(1)西田武弘, 2001; 胎子の栄養と成長. 新しい子牛の科学
(2)Gunnink et al., 1984; Post-partum leucocytic activity and its relationship to caesarian section and retained placenta. Vet Q
(3)Hammon et al., 2006; Neutrophil function and energy status in Holstein cows with uterine health disorders. Vet Immunol Immunopathol.
(4)Ingvartsen et al., 2013; Nutrition, immune function and health of dairy cattle. Animal.
(5)Lemons et al., 1983; Amino acid metabolism in the ovine fetus. Am J Physiol.
(6)土屋貴幸, 2008; 乳牛における分娩後の繁殖機能回復に影響する栄養要因の検討. 静岡県畜産技術研究所研究報告
(7)Martinez et al., 2012; Evaluation of peripartal calcium status, energetic profile, and neutrophil function in dairy cows at low or high risk of developing uterine disease. J Dairy Sci.
(8)Mavangira et al., 2017; Role of lipid mediators in the regulation of oxidative stress and inflammatory responses in dairy cattle. Res Vet Sci.
(9)Kankofer et al., 2002; Placental Release/Retention in Cows and its Relation to Peroxidative Damage of Macromolecules. Reprod. Domest. Anim.
(10)Castillo et al., 2004; Oxidative status during late pregnancy and early lactation in dairy cows. Vet. J.
(11)Qureshi et al., 2010; Effect of vitamin E–selenium administration during late gestation on productive and reproductive performance in dairy buffaloes and on growth performance of their calves. Pak. Vet. J.