獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(16)- 蹄の病気について
コラム

先月は跛行の見つけ方について掲載しました。私が担当する牧場では、跛行の見つけ方を共有するので、跛行の発見が早くなります(マニアックな肢蹄の話をしすぎる事もありますが…)。
ただ、その一歩先にある足のどこが痛いのか診断するには経験と時間が必要となるため、牧場の皆様と一緒に取り組んでいます。跛行発見時に、蹄? 肩? 肘? 膝? 股関節? どこが痛いの? と見分けるには、いくつかポイントがあります。そこで、今月のコラムには過去に掲載した蹄と飛節を除いた疾患による跛行について掲載していこうと思います。
––– 跛行している足のどこが痛いのか診断していくには –––
牧場で跛行を発見した際に、『足のどこが痛くて跛行しているか』と診断するのは獣医師業務の一環です。ただ、レントゲンなどの医療機器を使用しなくても、跛行の診断を行えるケースがほとんどで、それらのケースでは獣医師でなくても判断可能です(骨折の診断などは医療機器がなければ難しい場合もありますが)。足のどこが痛いか診断する場合には、解剖の知識が少しだけ必要となりますが、比較的診断しやすい疾患について以下に掲載していきます。
––– 股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)–––
まず、股関節脱臼について掲載します。牛の股関節は臼状関節と呼ばれ、凹と凸が組み合わさった構造をしています(イメージとしては、ゲーム機の3Dスティックのような構造です)。正常であれば、凹と凸が組み合わさっているため安定しているのですが、足を滑らせた際に関節(凹と凸)が外れてしまう事があります(3Dスティックがゲーム機から抜けたイメージ)。股関節脱臼は起立不能になることも多いのですが、跛行しつつも起立可能なケースがあります。起立可能な牛を見ると、下図のように皮下に突起が認められる事があり、診断の一助となります。

補足として下図に牛の解剖図を掲載します。牛を仰向けにした解剖図ですが、股関節脱臼になった場合、寛骨臼(かんこつきゅう:凹)から、大腿骨頭(だいたいこっとう:凸)が外れているのがわかります。

––– 骨盤骨折(こつばんこっせつ)–––
腰角が折れていたり、お尻周りが腫れて跛行している場合に多いのが骨盤骨折です。牛の骨盤骨折は見た目からは診断できませんが、直腸検査で骨盤腔をなぞると診断できます。 問題がない牛であれば骨盤をなぞると、つるっとして左右対称ですが、骨盤骨折をしている牛では骨盤の一部が折れ、尖った骨が触知できます。直腸検査や人工授精に慣れている方であれば、比較的容易に診断可能ですので、疑うケースがある場合にはトライしてみてください。

––– 肩甲骨周囲の筋断裂(きんだんれつ)–––
前肢で時々見られるのが肩甲骨周りの筋肉の断裂です。牛の肩甲骨は胴体と筋肉でつながっています。肩甲骨周囲の筋肉が断裂すると、筋肉で肩を持ち上げられず、体全体を使って前肢を持ち上げます。つまり、体全体で前肢を持ち上げている姿が、跛行しているように見えるのです(懸垂跛行と呼ばれます)。どうやって診断するかというと、左右の肩甲骨の位置と筋肉を見比べます。下図は肩甲骨の背中側にある僧帽筋が断裂したと診断したケースです。真上から見ると、肩甲骨の位置が異なり、左側の僧帽筋がある部位が凹んでいました。

さて、蹄病以外の疾患で時々目にする股関節、骨盤、肩甲骨周囲の疾患を掲載しました(肩、肘、膝、背骨の関節疾患も目にしますが、細かい解剖学の知識が必要となるため、今回は割愛します)。
前述した3つの疾患で多いのが、跛行発見 → 蹄病を疑い足挙げ → 蹄病は無く原因が分からない という相談です。3つの疾患に関してはちょっとしたポイントで診断することが可能ですので、疑うケースがあった場合には、前述した内容が診断の一助となる事を願っています。
(文責:牧野 康太郎)