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タイセイ飼料株式会社

獣医コラム/分娩の管理(8) ― 良い牛に育てるために(4)

それでは初乳そのもののポイントの最後です。

(3) 給与量とタイミング
 初乳についての最初のコラム (http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=36) でも述べた通り、初乳の重要な目的として「病原微生物から守ってくれる抗体であるIgGを子牛に与える」ことがあります。初乳から与えられたIgGは最終的に子牛に吸収され、子牛を守ってくれるIgG量が多い(=子牛の血中IgG濃度が高い)牛の方が、病気になりにくく死亡率が低い事も前回のコラム (http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=38) で述べました。

 では、どうしたら子牛の血中IgG濃度を高くできるのでしょうか?

 答えを先に言いますが「良質の初乳を、生まれてからなるべく早く、たくさん与える」ことが大きなポイントです(具体的な数値は後ほど)。この考え方の背景には「初乳の吸収率」がキーワードとしてあります。

 前回のコラムで、初乳にとって重要なポイントとして「初乳のIgG濃度が高いこと」と「汚染がないこと」を挙げましたが、特に「汚染がないこと」の中で紹介した通り、初乳中に細菌が多く存在すると、IgGの吸収率が低下することが分かっています。この「吸収率」の考え方が重要です。子牛の血中IgG濃度を高くしようと思って、良質の初乳をたくさん飲ませても、子牛に吸収されなければ意味がないですよね?つまり、子牛に吸収されるIgGは、以下の様に考えることができます。

子牛に吸収されるIgG量 = 初乳のIgG濃度 x 給与量 x 吸収率

 この式から、先に記載した「どうしたら子牛の血中IgG濃度を高くすることができるか?」を考えたとき、

● 初乳のIgG濃度は高いものを、
● たくさん与えるが、
● その時の吸収率がなるべく高い状態にあること


の3つが重要だと分かります。


―――初乳の吸収率を高くするには?―――
 そうすると、ここでまた疑問が出てきます。「吸収率が高い状態ってどういうこと?」「どうすれば吸収率が高くなるの?」

 その答えになるポイントは2つあります。

 まず1つ目は、前回のコラム (http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=38) で述べた通り、「初乳の汚染を無くす」ことです。60℃30分の低温殺菌を行うことで、IgGの破壊を抑えつつ殺菌できるため、結果的に吸収率がアップし、子牛の血中IgG濃度は高くなります(下図)。なお、低温殺菌の装置が無かったり搾乳が出来ない和牛の繁殖農家さんでは、「子牛が吸い付く前に、ウェットティッシュや硬く絞ったタオルで乳頭を拭いて汚れをとる」「最初の初乳は4-5回搾って捨てる(乳頭の出口に近い部分の乳汁は細菌量が多い)」などは簡単なので実践的な方法として行えるかと思います。

獣医コラム/分娩の管理(8) ― 良い牛に育てるために(4)

 2つ目は、「初乳をなるべく早く飲ませること」です。これは皆さんどこかで聞いたことがあるかもしれません。子牛が初乳を吸収できる仕組みは「ピノサイトーシス」と呼ばれるのですが、これができるのは「生後約24時間以内」であることが多くの研究でわかっています。しかも、24時間以内ならいつでも高い吸収率が期待できるというわけではなく、生まれてからどんどん吸収率が下がっていきます。そのため、初乳の給与量の目標値は時間と一緒に考えていかなければいけません。以下はその基準量です。

● 生後6時間以内に体重の5%以上/理想量10%
● 生後12時間以内に(トータルで)体重の10%以上/理想量15%
● 生後24時間以内に(トータルで)体重の15%以上/理想量20%
(2021.03.10訂正)

 例えば、体重30kgでは6時間以内に1.5L以上、12時間以内に3L以上、24時間以内に4.5L以上、となります。前回のコラムで記載した「良質の初乳」を上記の時間と量で与えられれば、子牛にとって初乳が不足することはほぼありませんが、初乳製剤では2袋以上の利用が推奨されます。
 
 なお、哺乳欲を示している子牛の場合、6時間以内であればその後の血中IgG濃度に差はなかったとする報告も多いため、以前の様に「ストマックチューブを使ってでも何がなんでも早く飲ませる!!」というよりは、「6時間以内に体重の5%以上を飲める様に、その前段階でケアをする」ことが重要です。例えば、「2時間で起立欲があるか」「4時間で飲乳欲があるか」など、時間経過と共に状態をよく観察し、必要に応じて手を差し伸べることがポイントです。
  
 次回はこの辺りのお話をしていきたいと思います。