獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(22)- 肢蹄の病気について
コラム
先月のコラムには給餌飼料ごとの第一胃性状と反芻の関係性について掲載しました。今月のコラムにはルーメンアシドーシスについて掲載していこうと思います。
––– ルーメンアシドーシスとは? –––
ルーメンアシドーシスとは、第一胃内のpH(以下、ルーメンpH)が酸性に偏ることを意味し、以下の2つのパターンが課題とされます。
・急性ルーメンアシドーシス(ARA:急激にルーメンpHが低下)
→ルーメンpHが5.0以下になり体調不良
・亜急性ルーメンアシドーシス(SARA:日常的にルーメンpHが低下する傾向)
→1日のうち3時間以上、ルーメンpHが5.6以下になる
※理想的なルーメンpHは6.2〜6.8なので中性
現場で問題となるのは多くの場合、亜急性ルーメンアシドーシス(SARA:Sub Acute Ruminal Acidosis)ですが、第一胃が内側から酸でズキズキと痛めつけられるようなイメージです(コーヒーを飲み過ぎた時に胃が痛くなるイメージ)。
では、なぜ現場でSARAとなる事例があるのでしょうか?とてもシンプルなことなのですが、以下の2点が要因として挙げられます。
①ルーメン内で酸性の化学物質が『過剰に』生産される
②反芻不足でルーメンにアルカリ成分が入ってこない(=唾液が入ってこない)
(反芻⇆唾液⇆アルカリ成分に関しては、2025年11月のコラムを参照)
※ルーメンにおけるVFAの吸収不良に関しては割愛
まず①に関して解説します。牛が食べた餌をルーメン発酵する際には、酸性の化学物質が作られます。これら酸性の化学物質はVFA(揮発性脂肪酸)と呼ばれますが、酢酸・プロピオン酸・酪酸が該当します。また、VFAを作る際に一部の経路では『乳酸』と呼ばれる強い酸を作り出してしまうことで、さらにルーメンpHを低下させてしまうことがあります。
つまり、牛がルーメンで餌を発酵させ、エネルギーを取り出す際には必ずpHを酸性側に傾けてしまうのです。
①の話だけ聞くと、牛は生きながらにして自身に負担をかけているように思えますが、もちろん調整する機能を備えており、それが『反芻』です。
2025年11月のコラムに牛は反芻により1〜1.5kgの重曹を唾液の中に分泌していると掲載しましたが(3kgに匹敵という話もあり)、重曹はアルカリ性なので、ルーメンpHをアルカリ性に傾けます。
つまり牛は、『ルーメン発酵で酸性化』 ⇆ 『反芻・唾液でアルカリ化』という流れを繰り返す事で、ルーメンpHを中性付近に保っているのです(つな引きのイメージ)
①も②も飼料設計や給餌方法により起こりうる課題ですが、おそらく飼料設計が原因のルーメンアシドーシスは減ってきているのではないでしょうか。現場でよく目にするのは②で、その原因としてはミキシング時間が長すぎることでゴツゴツした繊維が減少 → 反芻も減少することに起因しています(=ふにゃふにゃした繊維では反芻を刺激できない)。
先月のコラムに、適正な粗剛性を持つTMR ⇆ 粗剛性が弱いTMRの比較画像を載せました。この2つのTMRは全く同じ飼料設計でしたが、ミキシング時間は約2倍の差がありました。
ここまでご覧いただいた方はご理解いただけると思いますが、反芻を促すのは適正な粗剛性を持つTMRです。
この牧場では、粗剛性の弱いTMRが給餌されていた時期には牛が全く反芻せず、常に軟便で肢蹄が腫れている牛も目立っていました。そこで、TMR作成現場を確認 → ミキシング時間を適正にした結果、反芻が強くなり、肢蹄病も減少 → 淘汰する病牛も減っていきました。結果として数年後には搾乳牛頭数の増頭が叶い、生産性を高めることができました。
飼料設計のデンプン濃度が高すぎるとルーメンアシドーシスになるんでしょ? 粗飼料が足りないとルーメンアシドーシスになるんでしょ? という話をよく聞きますが、前述したミキシング時間のように、飼料設計の数値だけでは特定できない要因もあります。
もし、しっかり飼料設計しているのに反芻回数が少ないな…、いつも軟便だな…といった牛のサインがある場合には、TMRを作る現場を見に行くと解決の糸口が掴めるかもしれません。
(文責:牧野 康太郎)
ー参考資料ー
①Subacute Ruminal Acidosis Induces Ruminal Lipopolysaccharide Endotoxin Release and Triggers an Inflammatory Response
