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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(29) ―次の妊娠・分娩へ向けて(4)

【栄養不足による悪影響(3) 子宮内膜炎の増加】
 分娩後の細菌感染による子宮炎、特に「産褥性(さんじょくせい)子宮炎」と呼ばれる、発熱や食欲不振といった全身症状を伴う感染性子宮炎は、乳牛の周産期疾病の一つに数えられます。肉牛の繁殖母牛でも乳牛ほどではないですが、分娩後に発熱を伴ういわゆる“産褥熱”の発生は決して珍しくなく、分娩後早期に治療が必要とされます。

 この様に明らかな全身症状を伴う産褥性子宮炎は誰もがすぐに気がつき治療されるかと思います。一方で、見た目は健康で体調変化を伴わない症例も多く存在し、この様なケースでは積極的な治療が実施されないため子宮炎が見過ごされ、炎症が長期間にわたって継続します。その結果、子宮内膜炎や子宮蓄膿症、さらに悪化すると子宮筋炎などになり、長期不受胎の原因となることは容易に想像できるかと思います。

 これらの発生要因である「子宮内への細菌感染」は分娩時および分娩後に起こりほとんど避けては通れませんが、その後の「細菌感染が成立して子宮炎を発症するかどうか」は全く別問題です。この「感染成立 ⇒ 発症」するかどうかを左右するのは、免疫細胞、特に好中球の働きにかかっています。すなわち、好中球の機能が低下すると子宮炎を発症しやすく、これについては古くから数えきれないくらいの研究が報告されています。その中でも、好中球の機能が分娩前の栄養状態に左右されるという報告は多く、分娩前の飼養管理によって産後の子宮炎発症率は大きく変わります

獣医/分娩の管理(29) ―次の妊娠・分娩へ向けて(4)

 好中球機能と栄養素の関係は前回のコラムに多く記載したので、そちらをご覧頂きたいのですが(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=84)、ここでは、子宮炎の牛では栄養不足の影響などにより分娩前から好中球やリンパ球など免疫細胞の機能が低下していることを示す具体的な報告例を紹介します。

● 分娩後5週と7週の両方において子宮内から細菌が分離された(= 子宮内膜炎に陥っていた)個体では、片方もしくは両方で細菌が分離されなかった個体と比較して、分娩前3週の時点で既に血糖値が有意に低く、その平均値は50 mg/dL未満だった(1)

● 子宮炎を発症した牛とそうでなかった牛とを比べると、好中球内に存在する消化酵素の濃度 (*1) と好中球表面に存在する細菌由来の毒素を認識する部位の遺伝子発現量 (*2) は、子宮炎を発症した牛では分娩2週間前から大きく低下していた(2)
(*1:ミエロペルオキシダーゼ濃度)
(*2:CD14発現量)

● 分娩後に子宮炎を発症した牛では、分娩10日前から血中の特定のリンパ球割合が減少し(*3)、炎症の発生に関係するサイトカイン(*4)の産生能力が低下していた(3)
(*3:CD3+/CD4+ T細胞)
(*4:IL-1β)

獣医/分娩の管理(29) ―次の妊娠・分娩へ向けて(4)

 繰り返しになりますが、重要なポイントは「分娩後に子宮炎になる牛では、分娩前からすでにその予兆が現れている」ということです。つまり、産後の子宮炎の原因は分娩時や分娩後ではなく、分娩前にあることが多いです。

繁殖の改善に取り組む場合は目の前の問題に取り組むだけでなく、同時に「分娩前の飼養管理」に目を向けてみると良いかもしれません。

(続く)

––– 参考文献 –––

(1) Ghanem et al., 2016. Correlation of blood metabolite concentrations and body condition scores with persistent postpartum uterine bacterial infection in dairy cows. J. Reprod. Dev.

(2) Alhussien et al., 2021. Peripartum changes in the activity and expression of neutrophils may predispose to the postpartum occurrence of metritis in dairy cows. Res Vet Sci.

(3) Bromfield et al., 2018. Characterisation of peripheral blood mononuclear cell populations in periparturient dairy cows that develop metritis. Vet Immunol Immunopathol.