獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(18)- 肢蹄の病気について
コラム

先月は肢蹄の形状が姿勢(肢勢)に影響するというテーマについて掲載しました。ややマニアックな内容に見えたかもしれませんが、牛が快適に歩ける肢勢を整えることは肢蹄病を未然に防ぐだけでなく、産乳成績や繁殖成績、肥育成績の向上・安定につながります(反対に快適に歩けない牛では採食量が低下し、成績も伸び悩んでしまう)。では、どのように蹄の形状は整えられているのでしょうか。以下に削蹄の概要を掲載していきたいと思います。
––– どのように蹄の形状が整えられているか –––
多くの牧場さんでは、削蹄師さんに依頼して削蹄してもらっていると思います。削蹄師さんには流儀があり、ジャパンメソッド、ダッチメソッド、カンザスメソッドなど様々な削蹄方法(考え方)があります。本コラムでは、牧場の牛飼いさんに興味・認識を持ってもらうことを優先するため、削蹄の概要を簡略化して掲載していこうと思います。

さて、上図には簡略化した削蹄概要を掲載しています。内容を極力シンプルにしましたが、以下の内容となっています。
① 蹄壁の長さを決める
② 蹄先の角度を想定し、蹄踵(牛のかかと)に向けて削っていく
③ 牛が立った時をイメージし、内蹄 ⇆ 外蹄に同じ体重がかかるようにする
④ 土踏まず(土抜き)を作る
※泥や糞が抜けやすくなるとともに、蹄底潰瘍の予防にもなる
⑤ 病気がないかチェック & 処置
このような概要により蹄の形状は整えられています(※削蹄師さんは上述した内容より、さらに細かい削蹄理論を実行しています)。
ただ、蹄や骨格が変形している場合には、①〜⑤に加えて追加の処置が必要になることがあります。それは、『蹄の形や趾軸を見て、牛が歩きやすい負重面を作ること』です。言葉だけではわかりにくいと思いますので、以下に1例を掲載します。
––– 蹄や骨格が変形している場合は、趾軸/負重面を考慮して削蹄する必要も –––
骨格が変形している牛や、飼養環境により蹄の形が変形してしまった牛では、1頭ごとに削蹄方針を考える必要があります。以下の1例では、外蹄の蹄先が浮き、内側にねじれるように変形していました(軸側に内旋していた)。

この事例では、蹄先が浮いている原因・内旋している原因 を排除することで、牛は快適に歩けるようになりました。どのようにしたかというと、以下の様に処置しました。
・外蹄が浮いている
→突出している蹄底を削り、フラットにする(負重できる面を作る)
・外蹄が内旋している
→外蹄の内側(軸側)を削り、傾斜をつけて外旋させる(外蹄の軸側を薄くする)


至ってシンプルな方法ですが、この様な方法で内・外蹄でしっかり負重できるようになりました。
図を見てもらうとわかると思いますが、削蹄前と後を比べると、皮膚のよじれが消えた事がわかります。削蹄前は皮膚がよじれている状態からわかる様に、蹄関節に負担がかかり、歩くたびに痛みが生じていました。削蹄後は、皮膚・関節のよじれがなくなったことで、負担がかかることなく快適に歩けるようになりました。
牛は1頭ごとに蹄の形が違います。どのような削蹄/蹄治療の方針であっても、最終的には牛が歩きやすい蹄に整えてあげたいなぁ…と個人的には考えています。
さて、3ヶ月間に渡り牛の姿勢(肢勢)について掲載してきました。マニアックに感じる方もいると思いますが、足元から牛の健康を考えることは非常に重要です。成績を上げてほしい!という要望があっても、足元が疎かになっている場合、足元のケアも同時並行しながら成績改善を図る事例があるくらいです。
本コラムが肢蹄の状態に不安がある牛飼いさんの日々の判断材料となることを願っております。
(文責:牧野 康太郎)