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タイセイ飼料株式会社

分娩の管理(34) ―次の妊娠・分娩へ向けて(9)

––– 繁殖に与える助産の影響 –––
 分娩=お産は酪農家さんや繁殖農家さんにとっては農場の生産に関わる最重要イベントです。中規模以上の農場ではほぼ毎日起こる日常のイベントですが、それでも母牛と新生子にとって命に関わることもある大きなイベントなので携わる農家さんも気が気でないことが多いかと思います。安産で無事に産まれてくれればホッとしますし、私たち獣医師にとってもこの上なく嬉しく楽しみなイベントになりますが、難産の場合には人の手による適切な助産が必要になります。

 難産介助=助産の時はどうしても不衛生になりやすく、人の手によって子宮内に細菌を混入させてしまいがちです。難産によって空胎日数が延長することは以前のコラムでもご紹介した通りであり(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=91 )、軽度の牽引介助では影響はないものの、2-3人による助産やそれ以上の人数による助産であったり外科処置の場合には空胎日数が有意に延長します(1、2)。

分娩の管理(34) ―次の妊娠・分娩へ向けて(9)

 またある研究では、分娩経過時間とその後の子宮炎発生率が助産の有無によって異なることが分かりました(3)。この研究では567頭の乳牛の分娩についてカメラを用いて分娩にかかった時間と助産の有無を記録し、分娩後6日目と12日目における膣分泌物と乳汁温度から子宮炎の有無を診断しました。その結果、助産を必要としなかった牛のうち子宮炎と診断されたのは20%であった一方、助産を実施した牛では49%と約半分が子宮炎と診断されました。また、羊膜嚢(二次破水の袋)が見えたタイミングを分娩開始とし、子牛が娩出されるまでの時間を分娩経過時間として計測したところ、助産した牛においては子宮炎と分娩経過時間には関係があり、分娩時間が最短と最長の時に最も子宮炎になりやすく、約130分後に助産が行われた場合に最も子宮炎の確率が低い(28.2%)ことが分かりました。一方、助産を必要としなかった牛では分娩時間と子宮炎との関連は認められませんでした。つまり、羊膜嚢が見えてからあまりに早く助産を行うと、子宮内膜炎のリスクが高くなる可能性があることがわかりました。従って、羊膜嚢が現れてから130 分後が、子宮炎リスクを減らすための分娩補助を行う基準点になると研究者は推測しています(3)。

––– 不必要な子宮感染を抑える助産方法 –––

 上記の研究は北米の大学にある酪農教育研究センターで実施されたもので、詳細な記載はありませんでしたが分娩環境や助産の手技は一般的な農場よりも高い衛生度が保たれていたと予想されます。そのような環境であっても助産によって臨床型子宮炎の発生リスクは上がってしまいます。その一方で、子宮炎リスクを減らす点から考えた助産のタイミングは上記の通りではあるものの、目の前の子牛や母牛の命を助けることを考えた場合、そんな時間は気にしてはいられません。何が何でも早く介助しなければならない危険な状況というのは日常茶飯事だと思います。

 だからこそ、助産の際の衛生状態には常に気をつけておく必要があります。助産の際にはいつも決まった道具を揃え、清潔にすることはいくら強調してもしすぎることはありません(4)。助産する際には以下の手順に従って、常に衛生的に実施するように心がけましょう。

1.綺麗で清潔な道具類を準備する
・バケツ x 2個:一つは消毒剤入りのお湯/もう一方は冷水
・石鹸
・ペーパータオルorタオル
・助産バンド
・潤滑ローション
・直検手袋とゴム手袋
2.牛の尻尾を結んで牛の首に固定する
3.肛門・外陰部・尻尾を石鹸でよくこすり洗いする
4.水でよくすすいで一度ペーパータオルで拭き取る
※どんなに綺麗に洗っても残った水分中には雑菌が多くいるため、助産中に腕を伝って子宮内に侵入するのをなるべく防ぐ
5.直検手袋を肩まで装着した上から手にはゴム手袋を装着し、必要に応じて潤滑ローションをつけ、3で洗ったところ以外に手が触れない様に気をつけながら外陰部から手を挿入する
6.助産バンドを胎子の脚や頭に装着し ゆっくりと引っ張る

分娩の管理(34) ―次の妊娠・分娩へ向けて(9)

 助産は子牛・母牛の双方にとって安全に実施されなければならず、不適切な手技はどちらに対してもその後の生産性に大きな悪影響を与えます。安全な助産のためにはたくさんの経験と高い技術が必要ですが、この記事がその一助になればと思います。

― 参考文献―

(1)河原ら, 2013. ホルスタインの泌乳量,繁殖性,死産および経済的効果に対する分娩難易の影響. 日本畜産学会報 84(3):309-317.
(2)Dematawewa and Berger, 1997. Effect of dystocia on yield, fertility and cow losses and an economic evaluation of dystocia scores for Holsteins. Journal of Dairy Science. 80:754-761.
(3)Bauer et al., 2020. The use of calving behaviours and automated activity monitors to predict and detect parturition and uterine diseases in Holstein cattle. UBC Theses and Dissertations.
(4)Whittier and Thorne, 2007. Assisting the Beef Cow at Calving Time. MU Extension.