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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(21) ― 良い牛に育てるために(17)

●初乳と同じく重要な「臍帯炎の予防」
 前回まで長きにわたり、初乳に関する話をしてきました。分娩の管理において、初乳給与は牛の一生を決めると言っても過言でありませんので、その重要性を色々な角度から切り込んでいきました。前回までで初乳の話は一区切りつけまして、今回からは、同じく「良い牛に育てるために気をつけるべき分娩の管理」において重要な「臍帯炎の予防」についてご紹介します。

 臍帯、つまり「臍の緒(へそのお)」は母体から胎子へ血液を運ぶ極めて重要な構造物であり、これ無くして胎子が成長することはもちろん生存することもできないのは、皆さんもよく知るところだと思います。その一方で、分娩によって外界へと出てきた胎子は自発的に呼吸を開始し酸素を取り込むことで生命を維持し、その後ミルクを飲むことで栄養を摂取し成長していきます。つまり、母体内で同じ役割を果たしていた臍帯は必要なくなります。そのため、分娩時に臍帯は千切れて、その後は徐々に小さくなって消えて無くなっていきます。

 ただし、その「徐々に小さくなって消えて無くなっていく」ためには重要なポイントがいくつかあります。胎子期には重要な構造物であった臍帯だからこそ、そこが汚染されたり細菌感染を起こしたりすると、全身への影響も非常に大きくなります。臍帯炎はその局所だけの感染に止まらず、場合によっては臍を入り口として全身へ細菌が蔓延し、「腹膜炎」「関節炎」「肝炎」「膀胱炎」などを引き起こします。しかもこれらの感染症は、生後数ヶ月経って臍帯炎そのものは治って外から見ただけでは全く分からなくなってから「発育が悪い」「いつも微熱がある」など調子が悪いことで初めて気付くケースも珍しくありません。

––– 臍帯炎の予防に重要な3つのポイント –––
 つまり臍帯炎は「万病のもと」とも言えるので、その予防は極めて重要になります。ここでは「臍帯炎の予防」においてポイントとなる「分娩経過」「分娩環境」「臍帯処置・消毒」の3点をお話ししていきたいと思います。
詳細は次回以降にお話ししますが、最重要ポイントは以下の通りです。

(1)分娩経過:強い牽引は避けて臍帯(*1)を胎子に残す
(2)分娩環境:清潔な乾燥した環境を保つ
(3)臍帯処置・消毒:外側だけ消毒し乾燥させる

(*1:ここで言う「臍帯」とは後述する「羊膜鞘」を指します)

 これらを実践してもらえれば、臍帯炎や臍ヘルニアなどの「臍関連疾患」とはほとんど無縁になれます。これは極論ではなく、実現できている牧場さんが本当にいくつもあります。詳細な実践ポイントは次回以降ご紹介したいと思います。

––– 臍帯の構造 –––
 と、その前に、臍帯のことをちゃんとお話しするために、まずは臍帯の構造を簡単に、かつ正確に記載しておきたいと思います(ちょっと難しい話も挟みます…)。

 農家の皆さんも私たち臨床獣医師も含め、現場で「臍帯」や「臍の緒」と呼ばれるものは同じものを指していない事が往々にしてあります。どう言うことかというと、「臍帯」というのは正確には以下の4つの構造物から構成される「集合体」のことなのですが、現場ではその中のどれかを「臍帯」と総称して呼ぶこともあります。その4つとは以下の通りです。

 ● 臍動脈(さいどうみゃく):胎子から母牛へ出ていく2本の血管
 ● 臍静脈(さいじょうみゃく):母牛から胎子へ入ってくる2本の血管(牛では胎子のお腹に入るところで1本になり肝臓へ繋がる)
 ● 尿膜管(にょうまくかん):胎子の膀胱からオシッコが出ていく管
 ● 羊膜鞘(ようまくしょう):上記3つを包んでいる一番外側の膜

獣医/分娩の管理(21) ― 良い牛に育てるために(17)

 つまり、羊膜鞘が3つの管状構造物を包んで一体となったものが「臍帯」と呼ばれています。より正確には、羊膜鞘の中を満たしている「Wharton’s jelly(ワートンゼリー)」と呼ばれる胎子由来のゼリー状物質も含めて「臍帯構成物」とされています。このゼリー状物質がクッションの様な役割を果たし、臍帯は柔軟性と弾力性を保ち、大切な血管類を守っています。

 そして重要なポイントとして、私たちが生後の子牛で確認するいわゆる「臍帯」は「羊膜鞘」を指すことが通常であり、羊膜鞘以外のいずれかが露出していることは臍からの感染リスクを上昇させます。羊膜鞘はその名の通り胎子を包んでいる「羊膜」の一部であり、胎子側は臍周りの表皮(皮膚の毛が生えている部分)から連続しています(*2)。

 臨床的に臍帯炎となった時、上記4つのうちどれに問題があるかを特定することは難しい場合もありますが、少なくとも羊膜鞘以外の3つに感染が起こるとそのままお腹の中にまで感染が広がるリスクが高くなることは想像がつくかと思います。そういった場合、症状は重篤化する傾向にあります。一方、羊膜鞘は表皮に連続しており、他の構造物と比較して感染防御しやすい構造になっています。

 次回以降、この羊膜鞘を中心に臍帯炎予防の話をしていきたいと思います。

(*2― 獣医師向け:羊膜と表皮は外胚葉由来で連続した構造。一方、真皮・血管・腹膜は中胚葉由来、尿膜や腸管は内胚葉由来)